【今さら聞けない!】DNA、遺伝子、ゲノムの違い
みなさんこんにちは。医学生の山田です。
今回は、DNA、遺伝子、ゲノムの違いについて解説します。
生命科学がかなり進歩して身近になってきたので、ニュースなどの様々なメディアでDNAやゲノムといった言葉を聞く機会が増えていると思います。
これらは普段何気なく聞き流している言葉だと思いますが、もし小学生に聞かれたときに説明できるでしょうか?
かくいう私も小学生に説明できる自信はあまりありませんが(笑)、できるだけわかりやすく解説しようと思います。
1. ゲノムについて
まずはヒトの遺伝情報について、全体像をご説明します。
全ての人は、両親から半分ずつ遺伝情報を受け継ぎます。外見が両親に似ているのはこのためです。
また、この遺伝情報が一部欠けていたり、あるいは増えていても重大な病気につながることがあります。
それでは遺伝の仕組みがわかったところで、ゲノムについてご説明します。
そもそも遺伝情報とは、その人間ひとりを作り上げている設計図のような物です。そしてゲノムとは、この遺伝情報全てのことを指します。
覚えやすいですね。「遺伝情報の全て」がゲノムです。
皆さんはゲノム編集という技術を聞いたことがあるでしょうか?
これは遺伝子(次に解説)を切り貼りできる技術のことです。「ゲノム」を「編集」する技術なので、遺伝情報全体の好きな部分を編集できるという意味合いが含まれています。
2. 遺伝子について
それでは次に、遺伝子についてご説明します。
遺伝子とは、体を作る設計図の詳細に相当します。ゲノムが設計図そのものを指すのに対して、遺伝子は設計図上の文字や図形など、組み立て部品を作るための情報のことを指します。
具体的には、遺伝子は体内のタンパク質の設計図を担っており、その人の顔立ちや身長、また胎児のときの臓器形成(心臓や肺、骨、血液...)などを決定しています。
また、体内のホルモンや酵素なども遺伝子をもとに作られています。
つまり、体は遺伝子の働きによって作られているのです。
遺伝子は必ずしも完璧な状態で受け継がれる訳ではありません。
もし設計図の詳細が書いてなかったり、縮尺が間違ったりしていたら完成はしませんよね。遺伝子も同じで、遺伝子が間違っていると体に異常が出てしまいます。
身近な例はお酒の強さです。欧米人はほとんど全員が酒に強いですが、日本人は約半分が酒に弱く、5%ほどの人は全く飲めないと言われています。これは、アルコールを解毒する酵素の遺伝子に違いがあるためです。
解毒酵素の遺伝子が「酒に弱くなる」ように変化してしまい、それが後世に伝わったため、酒の強さに差が生じたのです。因みに、酒に弱い遺伝子を1つ持っていると酒に弱く、この遺伝子が2つだと酒が飲めなくなります。
(遺伝子は両親から1つずつ受け取ります。つまり、酒に強い親からは酒に強い遺伝子が、酒が飲めない親からは酒に弱い遺伝子が、中間型の親からはどちらか一方の遺伝子が受け継がれます。)
加えて、遺伝子は急に変わることもあります。代表的な例はがんです。
体内の細胞の増加ペースは遺伝子によって制御されていますが、この遺伝子に変化が起きて制御機能がなくなってしまうと、細胞が増殖し続けるようになります。
その結果がんになり、体を蝕んでしまいます。
以上で遺伝子についてご理解できたでしょうか。
遺伝子は、体を作り維持していくために必要なもので、人の体は数万個の遺伝子の働きにより制御されているのです。
3. DNAについて
最後に、DNAについてご説明します。
実は、遺伝情報の部位を表す「ゲノム」や「遺伝子」とは異なり、DNAは化学物質の名前です(デオキシリボ核酸)。
設計図で当てはめれば、設計図を書くための道具(例えば鉛筆など)に相当します。つまり、ゲノムや遺伝子などの遺伝情報は、DNAによって形成されているのです
DNAは約30億個つながっていて、これが2本組み合わさることで有名なDNAらせんが出来ます。この30億個というのはゲノムとしての長さ、つまり人を作り出すために必要な遺伝情報の長さです。
(厳密には30億個がつながっている訳ではなく、断片を合計すると30億個分になります)
また遺伝子は、DNAらせんの中でDNA数百〜数万個のまとまりによって作られています。
マジックペンで紐の上に点を書いた状態がこのイメージに近いと思います。
紐が遺伝情報全体、つまりゲノムです。紐の上に書いた点が遺伝子です。
そして、紐がDNA配列を表しています。紐を虫眼鏡で拡大したときに見える毛の1本1本を1個のDNAと捉えても良いかと思います。
以上をまとめると、
- 遺伝情報はDNAによって書かれている
- 遺伝情報全体をゲノムと呼ぶ
- ゲノムのうち、体の構成物のもとになるのが遺伝子
ということです。
いかがでしょうか。
DNA、遺伝子、ゲノムの違いについてご理解いただけたら幸いです。
これからも医学情報を発信して参りますので応援よろしくお願いします。